はじめに:一冊の本から始まった
LIGHTSWELLの出発点は、東京大学・多賀厳太郎先生の『脳と身体の動的デザイン』との出会いにあります。
発達とは、脳からの一方的な指令によって階段状に進むものではない。脳・身体・環境が互いに影響し合い、そこから新しい動きや行動が立ち上がってくるプロセスである――ダイナミックシステムズ理論(DST)のこの考え方は、発達支援のあり方そのものを根本から問い直すものでした。
まずはこの理論を、医療機関での臨床の中に落とし込むことから始めました。子どもたちと向き合い、保護者の方々の悩みに耳を傾ける日々の中で、既存の療育の現状を目の当たりにします。「脳の成熟を待つ」「反射を抑制する」といった従来の神経成熟理論に基づくアプローチだけでは、子どもたちの多様な可能性を十分に引き出しきれていないのではないか。療育そのものを根本から考え直す必要がある、と。
そしてもう一つ見えてきたのは、療育の「前」にある課題です。「うちの子、このままで大丈夫でしょうか」「どこに相談すればいいかわからない」。療育にたどり着く前の段階で、子どもたちと保護者の方々は大きな不安を抱えている。この不安に向き合い、子どもと保護者を中心に据えた支援の仕組みを地域連携の中で育てていきたい。
その思いから医療機関を飛び出し、立ち上げたのが株式会社LIGHTSWELLです。
ダイナミックシステムズ理論(DST)とは何か
ダイナミックシステムズ理論を一言でいうと、「発達は脳だけで起こるものではなく、脳・身体・環境の相互作用によって生まれるもの」という考え方です。
従来の発達観では、脳が司令塔となって身体に指令を出し、階段を一段ずつ上るように発達が進むとされていました。しかしDSTでは、発達をもっと動的に捉えます。
たとえば、赤ちゃんが初めて歩き出す瞬間。あれは「脳が歩行の指令を出したから」だけではありません。足の筋力がある程度育ったこと、つかまれる家具がそばにあったこと、「あっちに行きたい」という動機があったこと。こうした複数の要素がちょうどいいタイミングで噛み合って、「歩く」という新しい動きが生まれます。
DSTでは、この現象を「自己組織化」と呼びます。誰かが外から無理に教え込むのではなく、条件が揃ったときに子ども自身の中から新しい動きが立ち上がってくるプロセスです。
そしてもう一つ大切な概念が「ゆらぎ」です。新しい行動が出てくる直前、子どもの動きは不安定になります。昨日できたことが今日はできなかったり、いつもと違う動き方をしたり。一見すると後退に見えるこの不安定さは、実は次のステップへの準備段階なのです。
※ここでの「ゆらぎ」とは単なる退行ではありません。発達において特定の動きに落ち着いていた安定状態(アトラクター)が崩れ、一時的な不安定状態(リペラー)へと移行し、そしてまた新たな次元の安定状態へと向かう、発達のダイナミックなメカニズムそのものを指しています。
現場ではどう活かしているのか:制約主導アプローチ(CLA)
理論は理解できても、「じゃあ現場で何をすればいいの?」が見えないと意味がありません。DSTを実践に落とし込むフレームワークとして、私たちが取り入れているのが「制約主導アプローチ(Constraints-Led Approach:CLA)」です。
CLAでは、子どもの行動に影響を与える要素を3つの「制約」に分けて考えます。
「個体」の制約 ── その子自身の身体的な特徴、筋力、認知の状態、その日の体調や疲労度など
「環境」の制約 ── 部屋の広さ、床の素材、照明、音、周囲にいる人の存在など
「課題」の制約 ── 活動のルール、使う道具の大きさや重さ、目標の設定方法など
ここでいう「制約」は、何かを禁止するという意味ではありません。子どもが自分で「できた」にたどり着けるように、周囲の条件を整えるという意味です。
たとえば、ボールを投げる練習を考えてみてください。いきなり普通のボールで的当てをしても難しい子に対して、ボールを少し大きくする(課題の制約)、的を近くに置く(環境の制約)、座った姿勢で安定させる(個体の制約)。こうした調整を組み合わせることで、子ども自身が「あ、当たった!」という成功を体験できます。
LIGHTSWELLでは、理学療法士・作業療法士などのリハビリ専門職が「個体の制約」を評価・調整し、すべてのスタッフで「環境と課題の制約」を日々デザインしています。この多職種連携によるアプローチが、子ども一人ひとりに合った「ちょうどいい挑戦(Just Right Challenge)」を生み出す仕組みです。
5カ月で変わった、子どもたちの「描く力」
理論や支援の説明だけでは伝わりにくいので、実際の変化を紹介します。
LIGHTSWELLの子どもリハビリセンターIlluminationでは、リハビリテーションとDSTに基づく環境・課題の調整を組み合わせた支援を行っています。以下は、介入から約5カ月後の人物画の変化です(いずれも保護者の許可を得て掲載しています)。
※似顔絵の描き方の指導などは行っていません。
事例1:小学1年生(発達障害)

介入前は顔の輪郭と目・口を描くのが精いっぱいでしたが、5カ月後には髪の毛や耳が加わり、首から下の身体も描けるようになりました。顔のパーツの配置もより整っています。
事例2:小学3年生(発達障害)

介入前は紙の一部に小さな棒人間を描いていた状態から、5カ月後には顔の輪郭を大きく描き、目・鼻・口の位置関係を捉えた絵に変化しました。
事例3:小学3年生(発達障害)

介入前はやはり小さな棒人間でしたが、5カ月後には顔の表情、髪型、服、靴まで描けるようになりました。身体の各部位の比率も大きく改善しています。
事例4:小学6年生(脳性麻痺)

介入前は顔の上半分のみで線が途切れがちでしたが、5カ月後には頭から胴体、手足まで全身を描ききることができました。
人物画の発達は、身体の認識(ボディスキーマ)の形成や視覚-運動協調、空間認知の発達と密接に関わっています。「絵が上手になった」という単純な話ではなく、子どもたちの身体の使い方や世界の捉え方そのものが変化していることの表れです。
もちろん、こうした変化がすべてDSTのおかげだと単純に言い切れるわけではありません。子どもには自然な成長の力もありますし、ご家庭での関わりも大きな要素です。ただ、たった5カ月という短期間で、複数のお子さんに共通してこれだけの変化が見られたことは、環境と課題の調整がもたらす効果を示す一つの手がかりだと考えています。
「小さな変化」を記録し、支援の質を高める
発達支援の現場には、検査の数値には表れない日々の変化があふれています。
「今日は視線が3秒間合った」「スプーンを持つ指先に力が入るようになった」「いつもと違う手の使い方をした」
こうした小さな変化は、先ほど述べた「ゆらぎ」のシグナルかもしれません。次の発達段階に向けて何かが動き始めているサイン。でも従来、こうした微細な変化はスタッフの記憶や経験則の中にとどまりがちでした。
LIGHTSWELLでは現在、スタッフが日々の支援の中で気づいたこうした反応を、デジタルデータとして記録・蓄積する取り組みを始めています。目的はシンプルで、「どんな環境や課題の調整をしたときに、子どもにどんな反応が生まれたか」を振り返れるようにすることです。
経験豊富なスタッフの「なんとなくこの子、変わってきた気がする」という感覚は貴重です。その感覚を、あとから誰でも見返せるデータとして残す。それによって、支援の振り返りの精度が上がり、チーム全体の支援の質が底上げされます。
大規模なシステムを一気に導入するのではなく、まずは目の前の子どもたちの小さな事実を丁寧に拾い上げるところから。私たちはそういう地に足のついた取り組みを大切にしています。
学会発表と今後の展望
LIGHTSWELLでは、現場での実践を学術的にも発信しています。2023年の九州理学療法学術大会での発表に続き、九州作業療法学会2025では、医療的ケア児と小学校・医療機関との地域連携に関する研究で優秀賞を受賞しました。
また、東京で開催された専門職向けセミナーでは「子ども達の発達と自己組織化」をテーマに講師を務めるなど、DSTに基づく発達支援の知見を全国に発信する活動も行っています。
今後は、日々の実践から蓄積されるデータをもとに、学会発表や論文投稿を通じてエビデンスを積み上げていきたいと考えています。そしてゆくゆくは、大学や研究機関との共同研究にもつなげていくことが目標です。

おわりに:「支援する」から「一緒に発見する」へ
ダイナミックシステムズ・アプローチの本質は、「子どもを変える」ことではありません。子どもが自分の力で新しい動きや行動を見つけ出せるように、周囲の条件を整えること。支援者は「教える人」ではなく、子どもと一緒に「最適な環境を探る人」です。
株式会社LIGHTSWELLは、熊本市東区にある子どもリハビリセンターIlluminationを拠点に、重症心身障害児・医療的ケア児への専門的な発達支援を行っています。小児リハビリテーションとDSTを融合させたこのアプローチを、地域の行政・教育機関・企業の皆さまと連携しながら広げていくことが、私たちの目指す姿です。
発達支援に関心のある自治体・教育機関の方、あるいは子どもの発達にお悩みの保護者の方。まずはお気軽にお問い合わせください。
株式会社LIGHTSWELL 子どもリハビリセンターIllumination|welleap 〒861-8035 熊本県熊本市東区御領2丁目1-2-2 https://lightswell.co.jp/

