株式会社LIGHTSWELL 代表取締役の平川です。
今回は、当法人が運用している「認定スペシャリスト制度」について書きます。一人ひとりの専門性を高めることが、なぜチーム全体の支援の質につながるのか。その設計思想をお伝えします。
発達支援は、一人の専門職では完結しない
「正解を教える」という支援が、発達科学によって否定されつつある現代。子どもの発達に対する支援は、もはや一人の専門家だけでは答えを出せなくなってきていると、私たちは考えています。
では、専門性は何によって担保されるのか。
個人の専門資格。臨床経験。自己研鑽。もちろん、それらはすべて大切です。
しかし、発達支援の現場では、リハビリの時間だけで子どもが変わるわけではありません。リハビリ専門職が関わる時間、看護師がケアする時間、児童指導員が活動を一緒に行う時間、送迎の車内、食事の時間。子どもの1日のすべてが、発達のコンテクスト(文脈)です。
つまり、どれだけ優秀な個人がいても、チーム全体が同じ方向を向いていなければ、支援の一貫性は保てない。
これが、認定スペシャリスト制度をつくった出発点です。
ダイナミックシステムズ理論を「現場の共通言語」にする
当法人の子どもリハビリセンター Illuminationでは、ダイナミックシステムズ理論(DST)と制約主導アプローチ(CLA)を実践の中核に据えています。
DSTの基本的な考え方はシンプルです。子どもの発達は、脳が一方的に成熟して起こるものではなく、個体・環境・課題の3つの制約が相互作用する中で、システムが自己組織化するプロセスである。
この考え方に立つと、支援の在り方が根本から変わります。
「正しい動き」を教え込むのではなく、子ども自身が能動的に解を探索できる環境と課題をデザインする。スタッフは「訓練者」ではなく「環境のアーキテクト」として機能する。
ただし、ここに大きな課題があります。
この理論を特定のスタッフだけが理解していても意味がない。
DSTが言っているのは、発達は「システム全体」で起こるということです。であれば、そのシステムに関わるすべてのスタッフ──リハビリ専門職だけでなく、看護師も、児童指導員も、保育士も──が、同じ理論的枠組みを共有している必要があります。
リハビリの時間には自発性を引き出す環境設計をしているのに、活動の時間には「先生が教える」アプローチに戻ってしまう。もしそうなれば、子どものシステムにとっては制約の矛盾が生じ、自己組織化は阻害されます。
認定スペシャリスト制度は、DSTを理論として知っているだけでなく、現場で実践できるレベルの共通認識をチーム全体につくるための仕組みです。
制度の設計:なぜこの構造にしたのか
認定制度は、いきなり試験を受けるものではありません。段階的な設計にしています。
Step 1:法定研修(全スタッフ必須) どの事業所にも義務として定められている研修。ここがベースラインです。
Step 2:専門職による社内勉強会(全スタッフ参加) 認定理学療法士、3学会合同呼吸療法認定士などの資格を持つスタッフが、人工呼吸器管理や発達支援の考え方をチーム全体で共有します。ここで重要なのは、全職種が参加すること。リハビリ専門職だけの勉強会ではありません。
Step 3:LIGHTSWELLセミナー(希望者) DSTや制約主導アプローチ、神経科学、発達科学など、さらに深い内容に踏み込む法人独自のセミナーです。
Step 4:認定試験(希望者) セミナーの内容を理解し、実践に落とし込めるレベルにあるかを問う試験です。
この段階設計には意図があります。
Step 1〜2で、チーム全体の共通認識をつくる。Step 3〜4で、その中からさらに深く学びたいスタッフが専門性を高める。全体の底上げと、個の深化を同時に回す構造です。
認定を持っていないスタッフも、Step 2の社内勉強会を通じて同じ方向を向いている。認定スペシャリストは、その中でチームの専門性をリードする存在になる。そういう設計です。
認定は、すべてのスタッフが対象
認定試験の領域を見ると、神経科学、発達科学、バイオメカニクス、ダイナミックシステムズ理論、制約主導アプローチ、足病医学に基づく足育──いずれもレベルの高い専門領域に見えるかもしれません。
しかし、DSTの立場に立てば、これらは特定の職種だけの知識ではありません。
子どもの発達が「システム全体」の相互作用で起こるなら、そのシステムに関わるすべての人が、同じ解像度で子どもを見られるようになる必要があります。活動の時間に子どもの自発性を引き出す環境をデザインするのは、リハビリ専門職であり、看護師であり、児童指導員の仕事です。すべてのスタッフが発達科学やDSTの視点を持つことで、支援に一貫性が生まれます。
だからこそ、認定スペシャリスト制度は職種を限定していません。理学療法士も、作業療法士も、看護師も、児童指導員も、保育士も。子どもに関わるすべてのスタッフが対象です。
2025年度現在、当法人には3名の認定スペシャリストがいます。
- 平川 晋也(理学療法士/代表)── 2023年度認定
- 伊藤 恵梨(作業療法士/管理者)── 2024年度認定
- 岸 知子(児童指導員)── 2025年度認定
PT、OT、児童指導員。この多職種構成こそが、制度の設計意図を体現しています。今後、看護師や保育士など、さらに多様な職種の認定者が増えていくことを見据えています。

エビデンスレベルへのこだわり
認定試験で扱うエビデンスは、システマティックレビューやメタアナリシスなど、エビデンスレベルが高い文献を中心にしています。
世界的な小児リハビリテーションのエビデンスマップは、Iona Novakらのシステマティックレビュー(Traffic Light System)に代表されるように、介入の有効性をカラーコードで整理する段階に入っています。日本で当たり前とされている手技が、国際的には「do not(推奨しない)」に分類されている例も少なくありません。
大切な子どもたちに届ける支援を、不確かな情報に基づいて組み立てるわけにはいかない。だからこそ、スタッフ全員が最新のエビデンスにアクセスできる仕組みが必要でした。
事業所の外へ:welleapと地域への展開
認定スペシャリストの専門性は、Illuminationの事業所内だけで完結するものではありません。
当法人が運営する地域発達支援コミュニティ「welleap(ウェリープ)」では、認定スペシャリストが地域に出て、発達相談会や足育イベントを開催しています。
DSTの考え方を借りれば、子どもの生活圏全域が発達のコンテクストです。事業所・家庭・学校・地域。これらの環境間で制約が一貫していることが、学習の汎化には不可欠です。
welleapの活動は、この「生活圏全域における制約の調整」を地域レベルで実践する試みです。認定スペシャリストが直接地域に入ることで、Illuminationで培った専門性が事業所の壁を越えていく。
これからの展望
認定スペシャリスト制度は、まだ始まったばかりです。
今後は、認定者の拡大はもちろん、試験内容のアップデート、認定者によるセミナーの企画、そして他法人・他機関との学びの共有も視野に入れています。
九州作業療法学会2025での優秀賞受賞は、こうした取り組みの延長線上にある成果です。日々の実践を学術的に検証し、それをまた現場に還元する。このサイクルを回し続けることが、法人としての専門性を高め続ける唯一の方法だと考えています。
「かっこいいことをしよう!」
これは、LIGHTSWELLのバリューです。胸を張れる専門性を、一人ひとりの力で磨き、チームの力に変え、仕組みで積み重ねていく。そういう法人でありたいと思っています。
平川 晋也 株式会社LIGHTSWELL 代表取締役 認定理学療法士 / 世界理学療法連盟 小児グループ所属

